冬の海/shu
いつもこの電車を
乗り過ごして
海に来てしまう
もう誰もいない
スコップで掬って
持ち帰れるような
銀色の風景
はだしになって
ひとしきり砂を蹴り
波を相手に追いかけっこをして
飽きると
石ころを人型に並べて
殺人現場みたくして
ふむーと唸り
海に向かって
「誰ですかーっ?」
と叫んだりする
そうして
意味もなく腕立て伏せをしたりして
電車に乗って帰って
こたつに潜り込む
足に砂がついたままで
こするとさらさら落ちて
錆びた鉛色の血のようで
だからどうした
と
ミカンを頬張りながら
まるくなって
目をつぶると
忘れてきたものが
唾液のようにあふれて
じたばた
耳の奥で
溺れだす
熱い石が
欲しくなる
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