月と湖面の鏡/渡 ひろこ
月の清けき夜
折からの澄んだ風が
波のように襲ってくる感情を
鎮めようと
湖面を撫でるように
一陣 通りすぎる
暗い森影からの
ふつふつと湧くざわめきにも
耳をかさず
震える胸の内を
見透かされぬよう
唇を噛みしめひたすら耐える
気づいたら
自らの犬歯が
柔らかい粘膜を突き刺し
滲みでた血を
舌でそっと拭ったら
ふいに涙腺がゆるんでしまった
ポタポタと
どこまで潤沢なのか
枯渇するまで
流線型の滴をこぼして
湖面に金色に映る
月の満面の笑みを
かき消してみようか
いつからか
心を盲てしまった
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