必要/佐々木妖精
人であるために必要な何かを落とした
それは必要なくなったので
沈みゆく太陽に
またねと手を振ること
飛び立つ力を失って地面でもがく蛾を
目で追いながら
ひょいとよけて歩くこと
缶コーヒーの温もりを
いつまでも感じていたくて
飲めないまま
気がついたら家に着いてしまい
やむを得ず冷蔵庫に
しまってしまうこと
無駄なことたくさん落とした
いま必要な物も落とすだろう
いつか路頭に迷い
のたれ死ぬだろう
ガソリンを入れるためだけに
ガソリンスタンドへ向かった
俺の生活には無駄がない
部屋には布団しかないし
学校で覚えたことなどほぼ忘
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