仔犬/藤原有絵
 
穏やかな物語を
読み聴かせてくれなくても

私が一人で眠れる事を

きっと知らないのだ


絶望色のストールを巻いて
明日も私はふらりと街に出て
故人の掌編を読むだろう

過る人たちに
とても自分本位な希望を押し付けて

そっと目を伏せるだろう


むずかる仔犬の体温が
すっかり手のひらに移ってしまったから

正しい冷たさを忘れてしまいそう

この命はいつでも私に掌握されているのだ

そう思う事で
唇から溢れる笑みは
鉄錆のような味が 本当はする

その事も胸に打ち付ける事で

わりと穏やかな生活は続いていく





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