仔犬/藤原有絵
穏やかな物語を
読み聴かせてくれなくても
私が一人で眠れる事を
きっと知らないのだ
絶望色のストールを巻いて
明日も私はふらりと街に出て
故人の掌編を読むだろう
過る人たちに
とても自分本位な希望を押し付けて
そっと目を伏せるだろう
むずかる仔犬の体温が
すっかり手のひらに移ってしまったから
正しい冷たさを忘れてしまいそう
この命はいつでも私に掌握されているのだ
そう思う事で
唇から溢れる笑みは
鉄錆のような味が 本当はする
その事も胸に打ち付ける事で
わりと穏やかな生活は続いていく
戻る 編 削 Point(1)