なにももたらさない人間/短角牛
海になりたいと思った
海のような大きななにかになればすべてがうまくいく気がした
なにももたらさない人間は
何かをもたらさない自分が嫌いではなかった
いじけて自分の世界にこもるのは案外と心地よかった
なにももたらさない人間は
首から下が不随になってしまうことを考えた
自分は死にたがるだろうかと考えた
死に怯えて何もできないだろうかと考えた
わからなかった
なにももたらさない人間は
笑って死にたいと思った
なにももたらさない人間は
自分は塵芥のようだとする人間は
自分を哀れんだ
心がか細いと思った
なにももたらさない人間は
眠った
なにも、なにも
もたらさない人間は
自分が作った誰かの笑顔に気付かなかった
なにももたらさない人間は
鏡に写った自分に顔がないことに
腹の底から笑った。
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