元気か/佐々木妖精
尾崎豊が
盗んだバイクを乗り回していた頃
私は妹を橇に乗せて引き
スキー板を八の字に伏せ
恐る恐る降下していました
彼女が飲み込まれてしまわないよう
ただそれだけに夢中でした
尾崎豊が駆け抜け
伝説となった頃
私は東京に降り立ちました
日比谷はすでに役目を終え
冬が歌っていました
東京に空はありましたが
雪はありませんでした
私がそれまで恐れ続けていたものは希薄であり
あっても一つまみなので
ひょいとかわせます
逃れられない恐ろしさは
なかったように思えます
いつまでも消えない看板はあるのに蛾がおらず
闇夜に月を探す必要はありません
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