キリンの日/サトリイハ
 
を拡散してしまわなければと必死で漕いだのだった。鉄の鎖を握る手は汗ばんで血のにおいがする肉色が焦げた褐色の粒粒がついてる。まま前へ、後ろへ、前へ、後ろへ。温かい空気は上昇するのだよと理科の時間に先生がしゃべっていたらしいのを眠たいらしい重い頭で聞いていた彫刻刀でへんな文字やら穴やらが刻まれた机、牛乳をふいた雑巾、校庭の砂ぼこりとざわめきの横をまるく吹く風、チャイムのオレンジい音となんか夢、みたいなものとルーズリーフ、制服のポケットのなかの手、買ってくれたペプシコーラ、そんなのも全部全部漕いでかき混ぜて上へ昇らしたらぐんと前足が伸びてつま先に月、降りてきなよ、と君が言ってくれなかったからあたしもうずっと漕いで。


初出 「新宿金魚街図鑑」
http://blog.livedoor.jp/senco_gft/archives/267635.html

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