ルビのなかにきみはいない/佐々宝砂
さてわたしは詩にも詞にもココロにも興味がないので
いまから一人で山に向かうのである
秋盛りの山は薄暗い
有名無名の生き物がわたしを迎える
人はまだすべての茸を名づけてはいない
本当にまだ名がないかもしれない茸
それから黴
粘菌
わたしはふっと生きていてよかったと思いそうになり
これはいけないと思い直し
わたしを殺すかもしれない茸をぱくりと食べそうになり
またこれはいけないと思い直し
これは食べられると確信できる
みごとな朱色のアカモミタケに頬ずりして
ほっぺたを汚してよろこぶ
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