円軌業音/木立 悟
 




硝子を失くした窓の列を
鳥と花と草木が通る


ここは痛みを知らぬ胸
ただまなざしに焼かれるところ


道から湧く音 光まじる音
重なりを解いてはつなぐ音


ここだけのことはまぼろし
ここ以外のことはまやかし


あたたかなものは冷め
ふいに再びあたたかくなる


眠りのなかに響く声
思い出せぬまま 響く声


生きようとしなくても生きられる国が
死ぬつもりもなく死にはじめている


空からもらう花の数だけ
閉じたまぶたへ水は沈む


草の根の巣 鳥の巣 蜘蛛の巣
深く深く 深く到く火


叫べ叫べ おまえではなく
羽にさえ傷つくあえかなものへ


昇り 降りる 緑の水
巡りの淵の 鉛の光


ひとりをひとりに離す明るさ
あたたかな天気雨の夜をゆく










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