面影/AKiHiCo
裸足で歩いておりましたら
誰か聞き覚えのない声で
僕の名前を呼ぶのです
立ち止まり振り向くと
そこには小太りの
白いワンピィスを着た
婦人が一人おりました
もうすぐ雨が降るから
傘を買いなさいと小銭を
この手に握らせると
立ち去ってゆきました
誰なのかと考えている
その間の出来事でありました
いくら考えても
記憶にない婦人でした
シャツの釦を留めようと
胸の辺りに手を伸ばしますと
釦がだらしなく取れかかって
いるではありませんか
ゆらりゆらゆら ゆらゆらり
涙が滲みますけれど
僕は泣いてはいけません
母君は僕が泣くのを酷く嫌い
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