唇と頬/楠木理沙
 
僕の瞳に写る景色は 絶え間なく姿を変えた

鮮やかな黄色い花びらも 手の平ではくすんで見えた
かさついた茶色い落ち葉も 風に吹かれてダンスを踊っていた
通り過ぎゆく女性の髪からは ともに暮らした彼女のにおいがした
力なくしゃがんだ視線の先には 細身のジーンズからはみ出した贅肉が見えた

立ち上がるには幾らかの力が必要で
歩き出すにはそれ以上の力が必要で

それでも 
引きつりながら動いた唇と頬の筋肉が足元を急かすから
僕はまた重い腰をあげるのだ






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