唇と頬/
楠木理沙
僕の瞳に写る景色は 絶え間なく姿を変えた
鮮やかな黄色い花びらも 手の平ではくすんで見えた
かさついた茶色い落ち葉も 風に吹かれてダンスを踊っていた
通り過ぎゆく女性の髪からは ともに暮らした彼女のにおいがした
力なくしゃがんだ視線の先には 細身のジーンズからはみ出した贅肉が見えた
立ち上がるには幾らかの力が必要で
歩き出すにはそれ以上の力が必要で
それでも
引きつりながら動いた唇と頬の筋肉が足元を急かすから
僕はまた重い腰をあげるのだ
戻る
編
削
Point
(0)