似合わぬ指輪/FUBAR
きれいな声で
うたってた
金糸雀みたいに
誰もいなくなった教室にかばんを置いて
二階の廊下から駐輪場を眺めながら
校庭でもくもくと走りながら
ボールの弾む体育館で人知れず
ほんとうにきれいな声
多くが耳を傾ける
いつからか
きれいな声で
なくようになった
うたわなくなった
忘れたわけではないはずなのに
うたわない
訊くことがことが叶わない声をひとり聞いて
ないている
知る術のない理由をひとり受け止めて
ないている
金糸雀は幾度となく訪れるハネムーンを
どうしてもどうしても
信じてしまっている
後ろの山が
手招きし始めたことに
気づかぬふりをして
棄てられる
棄てられてしまう
いえ いえ と
それはなりませぬ と
とめる人はいても
ないているばかりで届かない
とめる人はたしかにいたのに
棄てられる
棄てられてしまう
いえ いえ と
それはなりませぬ と
とめる人は
もう
いない
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