冬のはじまり/プル式
 
中に、ぽつんと座って、外を眺める。流れて行く景色、小さな屋根や電線、街路樹、そういったものをぼんやり眺めながら、一人を楽しむようになっていた。
新宿駅について乗り換えの為に歩いていると、駅前で民俗楽をやっていた。アンデスの曲がなんだか冬の夜の始まりにマッチしていて、心密かに、荒野を行くさすらい人気分を味わっていたら、目の前に浮浪者の人が立っていた。適わないなぁと思いながら、階段をおり、ホームに入ると、コートやマフラーがちらちらと目立って来ていた。途中の駅ではクリスマスイルミネーションが飾り付けられ、帰宅ラッシュの窓から見えるそれは、なんだか少し幻想的に銀河鉄道の夜な気分になった。僕はそのうち忘れて行く記憶をたよりに、きっとまた、そこにある、当たり前の幸せという、暖かな世界を目指して行くのだろうと思う。コンドルは飛んで行く。紫の山並みにいつまでも、当たり前の様に。

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