冬のはじまり/プル式
 
方の無い事なのだけれど。それ、というのは、僕は夜に仕事をしているからだ。といっても別にお水系の仕事ではなく、デスクワークで、一日の仕事が終わると朝になっているから、必然的に普通の時間に人と出会う事がまず無いのだ。満員電車でサラリーマンが揺られる頃、僕は向かい側のホームで、少しのんびりとしながら、眠い目で通勤の行列を眺める。電車の中は空いていて、大概の場合好きな場所に座る事ができる。僕は電車の角の席に腰を下ろし、ぽかぽかと暖かな日差しの中で、ひなたぼっこをしながら、僕のおりる駅までの間、しばらく微睡んでは、時々おりる駅じゃないかと外を見る事が好きだった。少し前までの話。

・当たり前と言う幸せ
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