冬のはじまり/プル式
・僕は電車で真ん中に座る
少し語ろうと、思う。今しか語れない事や、それから少し前の事を。先の事を。
もうじき30歳になるある日、僕は友人と酒を飲み、そうして勢いで、次の日の仕事を休む電話を会社にかけた。僕らの働いていた会社は、そういう事に割と寛容で、時々、酒にまかせてそんな電話をかける僕を、笑ってやり過ごしてくれる。そこまで仕事に期待されていない分、僕としてもゆるい仕事場に甘えていた。
少し前なら、僕にも彼女が居て、そういう日や、休日なんかは一緒に出かけたり、バイクや車でドライブをしていたのだけれど、残念ながら、今の僕には彼女どころか、そうなる様な女性さえ居ない。それはそれとして、仕方の
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