贋作 手袋を買いに/蒸発王
フラーを巻いた
小さな子どもが
店の前に立って
ドアを叩いた
かじかんだと思う
小さな手のひらは
暗がりでよく見えないが
手袋を下さい
と言った
声は
雪の結晶を集めたように
震えていた
見えない勇気が滲んでいた
子供が差し出す白銅貨が
ちろちろと音を立て
其の音を聞いたとたん
子供の後ろから
一瞬
金色の尾が覗いた
それでも小さくなって
立ちすくむ様を見て
きっと
この子だ
思わず笑みを浮かべて
白銅貨と引き換えに
小さな手袋を差し出すと
子供は何度も
頭をさげて
真夜中の雪の中へ走って行った
転がるように走るうち
二本の脚が
四本にかわり
満月のような瞳が
真っすぐに森を目指すのを見届けた
きっと
あの子の手先は
黒い夜と
月光のぬくもりとで
いつまでも
温いままでいるだろう
不思議と
私の胸の内にも
手袋をしているようだった
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