贋作 手袋を買いに/蒸発王
それは
ほんの気まぐれ
『贋作 手袋を買いに』
真夜中に差し込んだ月光を
唇ですくって
指編みし
小さな誰かに合う
手袋を編んだ
私の指は
夜霧の摩擦に赤くなって
先が血のように赤くなっていたから
其の編み上げた
黒い手袋には
うっすらと赤茶の線が混じった
この手袋は
どんな闇夜でも
ぼんやりと光り
温もりを絶やさないものだから
本当に
寒がりで
小さい誰かにあげたいと思い
手袋屋で働きながら
その小さな
誰かを探していた
真夜中
新雪が
こおこおと
青く輝く
満月の真夜中
マフラ
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