虹/たもつ
 
語らないでいると
ケニアがある
暗闇の中
愛美が物語の続きをせがんでいる
言うなれば足だ
五本指のソックスで
地表が埋め尽くされていく
人に理由などないように
人であることに
理由などない

愛子は台所で夕食の仕度をしている
この時点ではまだ
愛美は誰からも産まれていない
遠くにある改札口で
草食性のライオンの群れが
草を食んでる
駅員がたいそう正直な人なので
愛美はそのことが少しつまらない
ならず者ならいいのに
語らないでいると
ケニアがある
言うなれば足
ナイロビで買った花柄のスリッパに
世界の重みが加わっていく

愛美は愛子から産まれなかっ
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