少女/ノボル
 
  少女

 少女は
綿工場の傍に立って
 雀の巣を抱いていた

 遠い日の写真のように
 いまも僕には思えるのだ
 
 綿工場が疾うに死んでいるのも
僕は気がつかなかった
 大人たちが
ロープを何重にもつないで
引っ張っると
 僕はもう
 そのたびに
 ぐらりと綿工場が揺らぐのを
 息も継げずに見ていたのだった

 すっかり取り壊されたその跡に
 ひとつの雀の巣があった
 そしてその時に
 僕は
 不意に思い出したのだった
 あの少女のことや
 頬かむりをしたおばさんのこと
 新聞紙から
 綿を取り出すという
 機械が
 ごおごおと
 音を立てていた
 綿工場のことなどを
 
 あの夜
 雀たちが
 不意に鳴いたかと思えば
 翌朝には
 ひとつ残らず
 死んでいたのだった

 遠い日の写真のように
 いまも僕には思えるのだ

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