轍/草野春心
 


  春……
  人びとのかたわらを
  時が通り過ぎてゆく



  いつでも 命は
  去って行った者の代わり
  そして突然の臨時列車が
  滑らかにフェード・インしてくる
  幾つもの「左様なら」と
  同じぐらいの「初めまして」と



  厳かすぎた列車の音が
  遠くの景色に染みこんだあと
  残り香のような沈黙の中で
  それは確かに失われていた
  おそらく永遠に



  時が通り過ぎてゆく
  人びとは哀しみという姿で
  その轍を見ることができる


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