客観的なドッペルゲンガー/榊 慧
 
つ無い。

損な人間なのだ。

そいつは、本気になったことも、なれるところも無い。
いつも何かしら不都合があり、邪魔が入る。
しかもちょっとばかし特殊なヤツなのでまた厄介だ。


顔が描けないのは、そういうことも関係あるのかもしれないと推測する。





伸ばしている途中の中途半端な長さの髪が、どうしようもなく鬱陶しいと今度は強く思う。
けれどここで切るとまた伸ばすとき面倒だと思い直して潜っていく。
そいつは、訳も無く泣き出したい感情にいつも駆られている。
これを直せるのは、そいつ自身しかいないと思っているようだ。

絵が描きたいと思いながら、
客観的なドッペルゲンガー。


まだそいつはペインティングナイフで油絵の具とキャンバス相手に闘っているのだろうか。
あのガソリンくさい匂いにあふれた空間もふと懐かしくなる。
そしてその世界に浸れたらとそいつは無意識に願うはずだ。








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