亡霊の午後/ホロウ・シカエルボク
 

やがて救急車は男を乗せて走り出し、女二人は(ふん、当然のことをしたまでよ)という感じで
現場の近くの喫茶店に悠々と入っていった
俺は勘定を払って店を出た、「またどうぞ」と店主はにこやかに言った
俺はまた来てもいいなと思った
歩道橋を渡って男が血を吐いた辺りに行ってみた
すでに血は軽く流されたあとだったが
そこにはたしかに尋常じゃない残像とでも言うべきものが漂っていた、俺は男がもたれていた自販機でスポーツドリンクを買った「俺が諦めていないように見えたのか?」すぐ後ろで誰かがそう呟いた
振り返るとさっき運ばれたはずの男がそこに居た
「あんた、その詩に責任を取ってくれ」と男は言った「俺は生涯目標など持った事はなかった」俺はスポーツドリンクを飲み込む事も出来ずに頷いた男は舌打ちを残して消えた
俺は男が消えた後にぼんやりと立ち尽くした、あいつは俺の詩のことを知っていた…
それ以上スポーツドリンクを飲むのをやめて男の血の跡に置いた
そのあとに続けようとしていた言葉はどうしても思い出せなかった



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