ゴムを踏んでる/たもつ
部長室にはいつも
風が吹いてる
日あたりのよいところで
書類の端がめくれている
窓を開けているのは
たぶん部長さんだと思う
机の上で
ピストルが少し色あせてる
微笑みながら毎日
部長さんが弾をこめてる
銃把のシールに書かれているのは
たぶん部長さんの名前だと思う
エノコログサなどの雑草がはえた
裏の空地には
夏の初めから
子供用の靴が一足忘れ置かれてる
靴の持ち主が今はもう
裸足でなければいいのに
部長さんとの相談は
大抵そのように始まり
いつ終わるともしれないから
途中には銃声が時々聞こえる
地面のゴムの部分を踏んで
古くて優しい人の
形のようなものが風に吹かれてる
たぶんあれが
部長さんだと思う
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