瀬賀/リーフレイン
 
するさま ただの一つも  
     ただの一つも 見逃すまじと
     砂に息ぶく赤穂の赤塩
     この手にとりて
     口に含みて
     砂の辛さにたてし誓いを
     嗚呼、この父はいったい何をせんや。」

    「父上様の頬をつたひし涙の 瀬賀の枕を濡らし候。
     たとひ幾千万里を超えし彼方の
     影にそひ、闇に溶かしたひとしずく
     花の若葉の夏の嵐の
     季節を背負ひし重みをたたえ
     瀬賀のもとへと
     瀬賀のもとへと滴り候
     その滴りが瀬賀に知恵をとせかし候
     かの滴りが瀬賀にとくとせかし候
     嗚呼、ただひとつ父上様に会いたしと
     ただ、ただその思いが馬車馬の
     目をふさいでまでも駆ける姿となりて候。」

     
遠江ノ長 「さても、木草ならぬ人ならば、
     この並々ならぬ親子の情愛、心動かぬはずもなし、
     げに哀れなり、げに道理なり。
     この上ははやはや暇取らするなり。」

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