書店にて/石畑由紀子
自動ドア
が開いた途端もうなにも聞こえなくなるくらい饒舌の坩堝なのだった
新参者が特等席でハバをきかせている
いたるところで人が出逢い
魅了され きつく絡み合い 約束を交わし 駆け引きをし 嫉妬して 別れ 忘れられず
犯人を追い 追われ 脅迫し 秘密を知って殺されかける
あぁ、と嘆き いぃ、と喘ぎ うぅ、と唸り えぇ、と頷き おぉ、と歓喜する
窓際では二週間分のターンテーブルがその見どころを伝え
人気のブティックホテルを調査し
血液型を知りたがり噂話に花を咲かせる
いたるところで人がすれ違い
話し相手を探し 愛してくれる人を探し 金を探し 自分を探す
ねずみ算式に増え続ける
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