ターテン/カンチェルスキス
 


  

 ターテンは
 両足が不自由で
 下半身と両腕に
 ギプスのような器械を
 つけていた
 本名の達野公彦と呼ぶ者は
 誰もいなかった
 みんな彼をターテンと呼んだ
 器械なしでは
 うまく歩けなかったし
 一人で立てんからだった



 ターテンが廊下の向こうに
 現れると
 カシャカシャと機械が軋む音が
 聞こえ
 皮膚もなぜか浅黒かったから
 千鳥足の蜘蛛が
 近づいてくるようだった



 なぜターテンの
 足が不自由なのか
 詳しく知る者は
 誰もいなかった
 幼い頃からの病気のせいで
 そうなったとか
 考え
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