散髪/Tsu-Yo
はいつ以来だろう。
美容師の器用な手が頭の上でひらひらと踊る。
あからさまに鏡の中の顔が変わってゆく。
お、なかなかいいんじゃないか、と得意げな表情になったり、
え、ちょっと変なんじゃない、と不安げな表情を浮かべたり。
いつもは気にも留めない、
些細な気持ちの変化が如実に見て取れる。
気が付くと誰だかわからない人間が鏡の中にいて、
何となく照れくさい気分になってしまう。
散髪の時間は、自分自身の心をしっかりと見つめる時間だ。
ふと床に目を移せば、
さっきまで自分だったものが散らかっている。
なぜ、こんなに無駄なものを持ち歩いていたのだろうか。
美容院からの帰り道は、切った髪の毛のぶんだけ足取りが軽い。
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