散髪/Tsu-Yo
 
失恋したら髪の毛を切る、
なんて古風な習慣は持ち合わせていないけれど、
髪を切らずにはいられない日は確かにある。
例えば、傘をさして歩いても心が雨漏りしてくるような日。
例えば、通いなれた一本道でふと迷子になってしまうような日。
そんな日は、予約も何もせず美容院へと駆け込む。
なるべく小さくて、静かで、清潔なところがよい。
それこそ教会みたいな場所なら素晴らしい。
美容院に入ったら髪の毛を洗ってもらい、
まずは心を落ち着かせる。
それから、じっくりと腰を落ち着け、
鏡の中の自分をじいっと睨みつける。
そそっかしい暮らしの中で、こんなにも
自分の顔をゆっくりと見つめるのはい
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