雨・九月の京都・鏡の駅/草野春心
 


  雨に滲んだ九月の京都が
  空から町へ静かにふりそそぎ
  初めての懐かしさが
  消えそうな時を満たしてゆく
  この匂いは何処でも同じ
  この思いは今ここにだけ
  雨に滲んだ九月の京都



  市バスの景色にすべてがあり
  竜安寺の苔にすべてがあり
  駅前のスター・バックスにすべてがある
  それでいて閉塞感はなく
  行き交う物事の優しい哲学が
  自由の象徴みたいに笑い声をたてる



  雨上がりの飴色を
  二度とやって来ないこの夕焼けを
  デジタルカメラで写さないで
  思い出に閉じ込めたりしないで
  僕はいつもここにいるよ
  夜に濡れた京都タワー
  ガラスの駅が映す 美しい光の川
  鏡の中じゃない
  僕の瞳の奥じゃない
  君はいつもここにいるよ


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