夜と水/木立 悟
 



そこに ここに
くちびるを置き
すぎゆくものの湿り気を視る
まぶしく消える音を視る


水に映らぬ双つの影
水辺を雨へ雨へと歩む
雨のまことは隠されている
現われても消えても隠されている


音はそばにいる
音は垂れ下がる
音は揺れ動く
支点はただ 命にある


指の増える音がする
触れ得るものは消えてゆく
減りも潰れもしない宙宇を
さまよう指は増えてゆく


夜の蜘蛛
鉄と鉄をわたる蜘蛛
奏でることなく 奏でられることなく
ひとつの唱でありつづける蜘蛛


遠さ 切なさ
離れ 異なり 重なりつづけ
とどかぬことの周りを巡る
とどかぬことの終わりまで


ちぎれた糸に獲物は無く
自らの脚を唱を喰み
蜘蛛はわたる
水をわたる


灯がうなずき 朝は近い
指がひとつ 増えては減り
ぬれた窓に書きしるす
湿り気の行方を書きしるす














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