水蜘蛛 ---amenbo/九鬼ゑ女
 
おんなは遠い目で過去を抱き寄せ
目の前の蜘蛛の巣を左手で払う
おとこの喉元に爛れたくちびるを這わせながら
右手に掴んだ蜘蛛をおとこの口の中に投げ入れる

蜘蛛は驚きもせず
おとこの口の中に糸を吐き出し
またせっせと巣を張る
たちまちおとこの軀は蜘蛛の巣だらけ

見ていたおんなもおとこの中に絡め取られ
そして
おとことおんなは
時空に漂う蜘蛛になる

やがて
おとことおんなから生まれた蜘蛛の子たちは
時の透き間からこぼれ落ち
水面に浮かぶ水蜘蛛になる      /みなも

水底には沈んだ過去がまどろむ    /みなそこ
おとことおんなが残した曖昧な夢が
写し絵のように揺らいでいる

気まぐれな風と戯れるさまは舞舞虫    
足跡はすぐに時に攫われていくけれど
その度にいくつもの波紋が
水底で沈むおとことおんなの空を舞う

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