守りたいもの/yoshi
 
どうでもいい事のように思えた

それがはっきりしたところで、彼女が救われるわけではない事はわかっているからだ

彼女の奇行が始まったとき、僕は恐怖におののいた

僕が彼女を壊してしまったと思った

「心の病気」だと周りは言った

周囲はいつだってやじうまだ

傍観者の癖に意見だけはしたがる、やっかいなものだ

僕は「環境を変える」事で彼女がもとどおりになるなんて そんな安易な事は

ありえないと思った

だって僕は、彼女が壊れるに足る事をしてしまったのだから

反省とか後悔とかそんなものはし尽くした

僕が本当に大切に思っていたものは彼女だったのだと

彼女が壊れたとき思い知らされた

もう何年何ヶ月彼女と言葉を交わしていないだろう

いつかそれが出来る日が来るなんて、今はもう想像すらつかない


今日も彼女は洗面台に立つ

忙しく、リズミカルに歯ブラシを持つ手を揺らしている

生真面目に眉間にしわを寄せて


そんな彼女は

娘の母であり、僕の妻だ






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