父のこと/銀猫
呼びかける名を一瞬ためらって
声は父の枕元に落ちた
あの日
医師から告げられた、
難解な病名は
カルテの上に冷ややかに記されて
希望の欠片も無く
黒い横文字となって嘲い
無情に切り取られた肉塊は
奇妙に生きていたね
麻酔の余韻に熱っぽい顔を
精一杯緩ませて笑う
痛いくらいの強さを知り
あなたが父であることを誇りに思う
闘う、ということ
守る、ということ
愛する、というこころ
ゆるゆると落ちる点滴に
わたしまで何かが滲みる
ぽとり、
ぽ
とり
泣けば良いのか
笑えば良いのか
それすらも迷うわたし、
小さい
白いシーツの海を
どうか泳ぎ切って
叱ってください
わたしを
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