背高泡立草/木屋 亞万
 
ある空き地の前を通ると
泣き叫んでしまいそうになる
通い慣れて遊び倒した家を思い出して

我が家より我が家だった

主を失った家は売られ
しばらくして潰された
ショベルカーがガリばりと
屋根を噛んでる姿が忘れられない

土ぼこりを防ぐ放水ホースが
薄汚れた虹を描いていた
瓦礫となった家をトラックに積み
何も無かったかのような空き地になった

大きな声を出して泣いた風をした
涙は必要以上に出てこなかった
驚いた表情の地肌だけが不自然に
染みを作って濡れていた

そのうち草が生え放題になり
犬や猫が糞尿を垂れ流していく
どこにでもあるただの空き地になった
人に見捨てられた土地になった

春には昔から蒲公英が咲いて
夏には夕暮れ蝙蝠が飛び回り
秋には虫の演奏会場になって
冬には引っ付き虫を提供した

殺風景だった地面にはくすんだ
黄色い草が生い茂っている
背高泡立草というらしいそれらが
風に揺れるたび視界は下から泡立っていく
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