空はまだ灰色に染まっていない/松本 卓也
 
背中から右足にかけて
立ち上がるたびに
座り込むたびに
鈍く鈍く走る痛みは
もう一月ほど続いている

目の回るほどと言う比喩が
何処までも陳腐に響くほど
此処最近の記憶は
仕事と痛みで埋まっていた

―そろそろ産まれるんだ―

少し照れながら笑う向こう側の声
一足どころか三足ほど先で
幸せとは何であるか
思いださせてくれていた

単一な空虚に埋もれた短い秋の片隅で
生まれてくる慶びに捧げた祝福が
灰色に塗りつぶされた空に
一際鮮やかに彩られている

宛てなく連なる日々の中
まだ笑う事ができる
思い出させてくれた声に
あらん限りの感謝と
精一杯の負け惜しみを込めて

おめでとう
願わくば
お前に似ない事を祈ってるよっ

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