「青い春」と呼ぶ/千月 話子
 
越しに
高く 叫ぶ
「伏せろ!伏せろ!伏せろ!」
と 記憶を少しばかり欠いて


轟音が静寂を生む
呆然と立ち竦む僕の周りの無音
映画のように景色が回る


疲れ果て しゃがみ込む鼻先に
緑踏む青臭い匂いがして
やがて 帰って来るだろう


友の放り投げた
鞄の痛みに傷付けられても
もう 何も返さない
ただ黙って
腹に拳を打って
肩を抱き合い
危うい 生を確かめる


僕達の事情は
半透明な船に乗ってやって来る
それは
静かに足元でさざ波を起こし
春の嵐のように心を沸き立たせ
春雷にビクつき
咲き始めた花の香りにふら付く


青春なんてクサい言葉は使わない
青い 春だ
澄んだ薄青の空に流れる
複雑な形の雲
間に間に
一本美しく伸びる
飛行機雲を見つけては
口の端で軽く微笑む


僕たちは そう
生き始めたばかりだ
生き始めたばかりなんだ





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