水母/こしごえ
 
足の
歩みはつきることはないが
うすいくちびるをそっと
とじるのが みえた

青白くそよぎ


ぬれた指先を黒髪でほどくと
つかんでいたことばが
声になってしまった
さようなら。
さよなら

別れの感触を探る
耳を熱くさかのぼる ふねの
ろのうでが
さやかな光沢を放ち
はねはゆぅらりゆらりと瞬いて
しろがねの小波をかきすすむ

絶滅危惧種の喘ぎを去る煤煙が
無法地帯へ旅立ち
起こされることのないねむりで
真空放電する静脈管をつらぬき
忘れずに手を振る
私の亡霊を
ひきずるな影よ

迷蝶が
林の中で息切れる
しずまりかえった
木々で
いちよういちよう息をしている
仄暗い目差が
はなうたをくちずさみ
みちたりた風にゆられて 発光を始める








戻る   Point(10)