usura-baka/九鬼ゑ女
 
女が泣くのはきまっていつも
金曜の夜
それも真っ黒な空に
針月が突き刺さった夜
だから月に二度はそんな夜が来て
女はおいおい膝を抱えて蹲る
女の涙が夜に垂れ込める

酒に酔った男が一匹
女のほつれ毛に
引っかかったのが、そう金曜の夜
針月がにやっと笑う夜だった

笑われた男は今はもう
夜に閉じ込められたまんま
出てきやしない
今頃は針の月に射抜かれて
さぞ辛かろう 心さむかろう

夜の傷口から誰かが反吐を吐く
泣き女に向かって反吐を撒き散らす

うすらばか 
うすらばか

虚しい反吐が当たり一面を汚すから
うすらばかといわれた女は
吐かれた反吐をひとつ残らず拾い集め
涙と一緒にこね回し
丸めたそれを夜の傷口にぐいぐい押し込む

顔を背けようとした途端
尖った身を反り返し針月は
うすらばかな女の
うすらばかな過去にむかって
大きなクシャミ
ひとしずく零れたのは
ひんやり黄色い糸ミミズ
これがまたこう鳴いた

うすらばか 
一声だけど、はっきり
そう鳴いた


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