童話の山羊の夜のみち/紫乃
 


    冬の夜の
    何もない一本道を
    包帯だらけの山羊が
    針金でできた自転車に乗って走る
    かたりかたりと
    暗闇に音を染み込ませていた

    煙草の煙と
    白くなった吐息とを
    交互にはきだしながら
    ちりんちりんと
    誰に聴かせるわけでもないベルを鳴らして

    このまま吐息を全て
    夜の大気ととりかえてしまえば
    気負わずにすむのだろうか
    そんなことが、そっと
    山羊の頭をよぎる

    両腕にあまる夜の気配は
    針金がひしゃげるたびに
   
[次のページ]
戻る   Point(8)