秋に-時雨の秋に/音阿弥花三郎
 
そそとして差し出される菊花
苦しみを経たのちの安堵のように
わたくしのからだの深みから
心の深みからも香りは立ちのぼる

気がつけば時雨
寒さ益す時雨の屋根打つ音が
薄闇をつつむ部屋の隅にまで
ささやく

晴れはない、その気持ちを継ぐように
秋夜の愁いは月のようにも
ひとり冴え
わずかになぐさめをいただこう気づかいも
観菊の誘いの歓楽も気休めに過ぎない

秋の愁いは声明(しょうみょう)のようにも
したしたと誘い来て 声は続くのだけれど

絶対の一人しかいない
はしたないまでの認識
この世で わたくしは一人

時雨打つ音に
一輪の菊を活ける
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