夢を買う男/風音
 


ーううん。苦しい。でもわかんない。

ーもう買っちゃったからな。

ーありがとうって言うべきよね。

男は大声で笑って帽子を被った。

ー別に。

そしてさっと立ち上がって
戸口を出て行った。

開いたままの戸口から
冷たい秋の夜気が
吹きこんできた。

わたしは戸口に行き
男がもういない事をわかっていながら
後姿を探し
ゆっくりと扉に寄りかかった。


わたしのシャボン玉は
まだ割れないらしい。

でも夢を買う男を信じて
もう少し待ってみる。

もう少し。
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