骨と首の話 その4(完)/hon
 
変わっておらず、そして全然動かなかった。その周囲の空間だけ時間が停止しているかのようだった。
 目を悪くするぞ、と少年を見て思った。ちょうど空は薄暮から暗闇に移行し、ホームに並んだ青白い蛍光灯が点きはじめた時間帯で、活字を読むには特に向いてない環境であった。
 いったい、周囲も気にならず時間の過ぎるのも忘れて本を読むのに没頭してしまっているのか、あるいは彼にはどうしても自分の家に帰りたくない事情でもあるのだろうか。
 後ろからまわりこんで彼の膝の上に開かれた本を覗いてみると、『トニオ・クレエゲル』だった。
 ゴウッと風が吹いて、下りの電車がホームに滑り込んできた。ドアが開き、そこから人波が
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