夕凪ノスタルジア/山中 烏流
 
末を知りながら、僕が口を
ゆっくりと結び直したことを。
 
君は見ないふりをして、
髪の毛をくるくるといじりながら
大丈夫、とでも言うように
微笑んでいる。
 
 
世界の裏側から、吹き上げてくる
二人だけの夕凪に包まれながら
全く同じ瞬間に
眠れたならいいのに。
 
やはり君はそれを
聞いていないような瞳で、
そう呟いた僕の唇だけを
ただじっと、見詰めている。
 
 
松明が、吹き消された視界に
君の呼吸だけが
色を持って存在することを、
僕は君に
話すべきなのだろうか。
 
 
月光が射す頃になって、たった一言
帰りたいだけなのだ、と
ようやく君は口を開くから
僕たちは今日もまた
抱き合って泣いてしまった。
 
僕の右手はまだ、
震える君の手を握っている。
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