季節の散歩術/岡部淳太郎
 
が、散歩というものが持つ本来の特性、気楽に目的地を決めずに彷徨するという特性を思い出せば、いつどんな時であっても散歩を楽しむことが出来るだろう。ただのんびりと歩いて、靴先の向かうままに歩を進めれば、目の前の風景が開けてくるだろう。時には後退して、また立ち止まって、目に映る風物を愛でるのも良い。散歩とは目的のない歩行であるがゆえに美しく、それは詩や歌に似たところがある。そしてそれは、目的を持たないがゆえに世界と自らに対する無償の行為でもありうるのだ。
 人よ、散歩せよ。歩を散らして、そのひとつひとつの足跡にあなたの無償の生を染みこませよ。そうすれば世界はいままで隠していた真実を、ほんの少しだけあなたに打ち明けるだろう。



(二〇〇七年九〜十月)
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