ランチタイム/足立和夫
昼時の定食屋に
ひとりで坐るサラリーマン
タバコのけむりが
背中をはって
店のなかにひろがる
ほかに客はいない
けむりだけが漂っている
その男はタバコを
吸ってはいない
静かに食事をしているだけだ
魚の肉を
箸で口に運ぶ
ご飯も運ぶ
なめこの味噌汁も啜っている
毎日この店に来る
男はいつもひとりだった
不思議なことは
なにもない
ただ食事に来るだけなのだから
支払いだってちゃんとしている
財布を忘れたことがないのだ
ある日
男はこなかった
翌日もこない
ついに現れることはなかった
不思議なことは
なにもない
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