草むらの記憶(あるいは水筒の中の現実)/Tsu-Yo
 
追憶の草むらに少年が一人佇んでいる
阪神タイガースのキャップを目深に被り
みすぼらしい水筒を肩からぶら下げて
自分の人生よりも遠い場所を
睨み付けながら少年は佇んでいる
水筒の中にはジャックナイフが入っていて
それは核の恐怖に対する人間の
唯一の抵抗手段といわけではないが
少年の父親(もしいるとすればだが)を葬るには
充分すぎるほどの殺傷能力を秘めているだろう
少年の立つ草むらからわずかに目を移すと
そこにはひとつの記憶も存在しない寝室があり
かつて少年だったはずの男が
ナイフで胸を突き刺される夢に魘されている
  *
運転手さん次の信号を右折してください
その先を
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