滑走路/狩心
私の体は完全に透明になっている
私の体を通り過ぎる列車
物理的な現象は
反比例する二次関数のグラフの前で
何の意味も持たない
内側の列車から降りて来る乗客たち
乗客たちは一様に皆
ホッとした安堵の表情を浮かべ
傍らに居た主治医の姿は消える
硬いレールの中に染み込んだ血
レールの中を、血が、人々の声が、無言の表情が、疾走していく
それと共に、世界中の列車が、脱線事故を起こす
乗客は皆、外の地面に投げ出され
自らの足で、歩く事を余儀なくされる
自らの手で、築いてしまった途方もなく長いレールと機械音
そして皆、内側の列車の振動を、音を、様々な乗客たちの顔を
確認する為に
線路の上に横たわり始める
無数の人々の体で出来た線路の上空を
最先端技術を駆使した車輪のない列車が
演説しながら大気圏に向かって上昇していく
このまま燃え尽きて、消滅する事を知っていても
高鳴る心臓は宇宙を求めて
小さな赤ん坊を抱きしめる
千切れた体の一部が
あの、宇宙空間に漂っている事を
知っているので
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