空へのぼる音/ふぁんバーバー
 
れも
彼の悲しみにこころあたりはなかった

いま幸せ?
美代ちゃんに聞いてみたって仕方ないのに
うつくしい横顔に声をかけたら
そんなにいいことはないよって
だれだってきっと
そうなのだろう

わたしもおなじ
たいしていいことはない
でも死んでしまうほどの悲しみもない
みんな同じくらいの歩幅で
同じくらいの高さまで
待ったり
待たれたりしながら
生きてゆくのだろうと思ってた

タクシーを降りて
美代ちゃんをお茶に誘おうか迷ったけれど
急ぐからって嘘ついて
先に電車に乗ってしまった

空は澄んで
すっかり秋の気配
美代ちゃんには美代ちゃんの悲しみがあるように
だれもわたしの悲しみを知ることはない
たぶんわたしじしんさえ

彼が歌っていた歌を思い出そうとしたけれど
けっきょく
思い出せないまま
眠ってしまった










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