サイレン/黒田康之
 
、何も変わらない何かを僕らは一人ひとり持っていて、今はそれが仮に晴佳の姿をして僕の目に見えているだけかもしれない。
 僕は走る。この黒に転じようとする重黒い赤を全身に浴びて、どこも安全なのではないという今の状況を走る。僕は走る。僕は走る。僕らは必死に自転車をこぐ。
 とめどもなくサイレンの鳴り響く中を、猛烈な天災の予兆の中を、同じ速度でどこかへと走る。明日なんかどうでもいい。今のために、その今の先にある何かのために、僕らは今ここを走っている。

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