マシュの葬式/フユナ
マシュはとなり町の病院で死んだ
マシュが愛した
マシュの本屋では死ななかった
マシュは本屋だった
この町一軒の本屋だった
マシュの店は正方形
そこにふるびた黄色い本
この店一冊の本だった
本は一冊だったけど
マシュは食うには困らなかった
葬列は極彩色
町のひとたちが極彩色だから。
こどもたちはよく聞いた
そのたった一冊に
なにが書いてあるのかを
辻の菓子屋の
チョコの味を聞くように
町のひとたちは天をあおぎ
あるいは、煙草をふかして
あるいは、羊皮でできた靴のひもを
わざと踏むようにして、
そうさなあ と、つぶやくのだ
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